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東京高等裁判所 昭和54年(ネ)193号 判決 1980年4月28日

控訴人 徳武恵一

控訴人 徳武初夫

右両名訴訟代理人弁護士 山田有宏

同 田中俊光

弁護士山田有宏訴訟復代理人弁護士 内山哲夫

同 杉政静夫

被控訴人 後藤昌子

被控訴人 柏原慶子

右両名訴訟代理人弁護士 真山泰

主文

原判決中控訴人徳武恵一敗訴の部分を取消す。

被控訴人らの右取消にかかる部分の請求を棄却する。

控訴人徳武初夫の控訴を棄却する。

訴訟費用中当審において生じた部分を二分し、その一を控訴人徳武初失の負担とし、その余の部分及び第一審において被控訴人らと控訴人徳武恵一との間に生じた部分は全部被控訴人らの負担とする。

事実

一  控訴人らは「原判決中控訴人ら敗訴の部分を取消す。被控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」旨の判決を求め、被控訴人らは「本件控訴をいずれも棄却する。控訴費用は控訴人らの負担とする。」旨の判決を求めた。

二  当事者双方の主張並びに証拠関係は「控訴人らは、当審証人菊地五郎の証言並びに当審における控訴本人恵一尋問の結果を援用した。」と付加するほかは、原判決の事実摘示中控訴人ら関係部分と同一であるから、これをここに引用する。

理由

一  請求の原因2項の(一)ないし(三)及び(五)の事実は当事者間に争いがなく、この事実と《証拠省略》を総合すれば、本件事故は、前記県道を浦和方面から志木方面に向けて走行してきた倉沢車とその反対方向から走行してきた徳武車の衝突によって発生したものであることを認めるに充分である。そして、弁論の全趣旨によれば、控訴人初夫が徳武車の所有者として自動車登録原簿に登録されていることは明らかであり、同控訴人が本件事故当時徳武車の運行支配及び利益を喪失していたことについては、同控訴人において何ら主張立証するところがないのであるから、控訴人初夫は徳武車の所有者としてこれを自己のために運行の用に供していたものと認めるのが相当である。よって、以下項を改め徳武車の運転者であった控訴人恵一の過失の有無及び控訴人初夫主張の免責の抗弁の成否について判断する。

二  《証拠省略》を総合すれば、次の事実が認められ、右認定を左右できる証拠はない。

1  本件事故現場附近の道路は、幅員五・五メートルの平坦かつ直線で見通しも良好なアスファルト舗装道路であって、その両側端にはガード・レールが設置され、中央線の標示が施されており、制限時速四〇キロの規制がされていた。

2  本件事故発生直後における事故現場の状況は、おおむね別紙「交通事故現場見取図」のとおり(但し、同図面中、をもって表示した倉沢車及び徳武車に関する記載をのぞく。以下同じ。)であるが、倉沢車は、徳武車本来の進路にあたる北側車線内において、その前部を志木方面に向け、後部の一部を北側ガード・レールの上にはみ出させて転覆し、その後部附近から右のガード・レールまで、ほぼ直線で長さ六・五メートルのスキッド・マーク(このスキッド・マークは、別紙図面表示の倉沢車及び徳武車の位置関係からすれば、倉沢車の右後車輪によって生ぜしめられたものと推定できる。)が残されていて、北側ガード・レールのうち右のスキッド・マークの末端が接する部分には凹損があり、かつ、そこには倉沢車と同色であって、倉沢車の接触によって付着したと推定される茶色塗料が付着し、また右のガード・レール凹損部附近の路面の数か所が掘れていた。他方徳武車は、倉沢車本来の進路に当る南側車線内に前部を浦和方面に向けて停車していたが、同車の車輪によるスキッド・マークは存在しなかった。倉沢車は、右側前照灯は破損しなかったが、その左前部、左フェンダー部から助手席にかけて、原型をとどめないまでに大破し、徳武車の破損状態は倉沢車ほどではないが、その前部がその前面から左側にかけて同様原型をとどめないまでに大破していた。

右認定の事実と《証拠省略》により認定した事実を総合すれば、倉沢車は、本件事故前に、それまで走行していた南側車線から北側車線に進路を変更して北側のガード・レールに接触し、それと同時に施された急制動によって道路の中央線に向って滑走し、右の中央線附近において、折から南側車線の中央線寄りを対向進行してきた徳武車の前部やや左側に自車の前部左側をほぼ正面衝突に近い状態で激突させたものと認められるのであって、前記倉沢車の転覆位置とその後車輪によるスキッド・マークから推定できる倉沢車の転覆直前の位置体勢と徳武車の停止位置からすれば、倉沢車と徳武車の衝突地点は、別紙図面中、をもって表示した両車の接触地点附近であったと推認するのが相当である。《証拠判断省略》

以上認定の事故発生の状況によって考えて見ると、倉沢車が先行車追越のため北側車線に進路を変更した際徳武車またはその他の対向車を発見し、これとの接触をさけようとして狼狽し、運転操作を誤ってガード・レールに接触し、急拠左に転把して急制動を施したため、同車は前記の接触地点附近まで滑走し、他方徳武車は、右のような状態にある倉沢車を発見してやむなく南側車線に回避したが及ばず倉沢車と衝突したと見られないわけではなく、もしそうだとすれば、本件事故の発生は倉沢車の一方的過失に起因するものというべきである。しかし倉沢車の右進路の変更は、追越のためではなく徳武車が先行者追越のため自車進路の直前に進出したため、狼狽のあまり前記のような行動に移りその結果徳武車と接触したとも見られるのであって、しかも徳武車についてスキッド・マークが認められず、ほぼ正面衝突に近い状態で衝突しているのに倉沢車の受けた損傷の方がより大きく、かつ同車は転覆しているところから見ると徳武車の方が倉沢車より高速で進行していたことも窺われ、倉沢車が北側車線に入った原因は、むしろ後者であった公算が大であるとも考えられる。この場合徳武車にも道交法二七条違反の過失があったというべきである。しかしながら右のいずれであったか、あるいはその他の原因によって本件事故が発生したのかについては、本件の全証拠を検討して見ても、これを確認できる資料はない。なおアスファルト路面の前記掘削痕がいかなる原因によって生じたかは明らかにできないので右の資料に供することはできない。

そうして見ると本件事故発生についての控訴人恵一の過失の有無は不明であるから、右の過失の存在を前提とする被控訴人らの控訴人恵一に対する本訴請求は、すでに他の争点について判断するまでもなく理由がないことになるし、右の過失の不存在を前提とする控訴人初夫の免責の抗弁は右同様理由がないことになるから、同控訴人は自賠法三条の規定により本件事故の結果被控訴人ら及び亡徳武に生じた損害を賠償すべき義務がある。

三  本件事故の結果被控訴人らが控訴人初夫に対して取得した損害賠償請求権の額についての当裁判所の認定判断は、原判決の理由説示中控訴人初夫関係部分(原判決一五枚目表五行目から同一七枚目裏末行まで及び同一八枚目裏五行目から同二〇枚目初行まで)と同一であるから、ここにこれを引用する。

四  よって、原判決中、被控訴人らの控訴人恵一に対する請求を認容した部分は不当であるから取消して右請求を棄却し、控訴人初夫に対する請求を前記認定の限度において認容した部分は相当であって控訴人初夫の本件控訴は理由がないから、これを棄却し、民訴法九五条、九六条、八九条の各規定を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 綿引末男 裁判官 田畑常彦 原島克己)

<以下省略>

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